奥田美和子 - さくら散る前に ホームルームが終って 教室や廊下に残るざわめきを通り過ぎ わたしは南校舎の部室に向かった いつも わたしが先に入って 本を読んできみを待ってた きみはすこし照れながら入ってきて わたしは本を閉じて話しかけた 本やテレビや音楽の話・・・・・・ 話すことはなんでもよかった きみと同じものを聞きたかった きみと同じものを見たかった いつまでも おしゃべりしていたかった いつまでも いっしょにいたかった さくら さくら 散ってしまう前に あのひとの声を聞かせて さくら さくら 咲いてるあいだだけあのときのわたしに戻して さくら さくら さくら さくら チャイムがやんで ランニングの掛け声やボールを打つ音が静まり 君は紺色のブレザーを肩にかけた いつも きみが先に立って 机に座ってわたしを待ってた わたしは前髪をひっぱりながら立ちあがって きみは歩き出して話しつづけた 今日や昨日や明日の話・・・・・・ 聞いた話は夢になった きみと同じ場所にいたかった きみと同じ時間を過ごしたかった いつまでも おしゃべりしていたかった いつまでも いっしょにいたかった さくら さくら 散ってしまう前に わたしの声を届けて さくら さくら 咲いてるあいだだけ あのときのあのひとに戻して さくら さくら さくら さくら